認知症領域における先制医療
認知症領域における先制医療が可能となった背景として、危険因子の判明や前段階の同定が可能になったこと、発症前の予防活動が可能になったことなどが挙げられます。先制医療が進むことによる今後の展開としては、非薬物的なアプローチによる2次予防や疾患修飾薬での1次予防、サプリメントでの2次・3次予防の進展が考えられます。
以前、MMSEとSPECT検査で5年以上フォローアップした患者さんを、アミロイドPETが導入可能になった段階で検査した際に、アミロイドβが陽性となっており、早期発見ができなかったことを悔やみました。そのような経験から、先制医療の重要性を実感しています。
認知症の危険因子と非認知症段階
認知症予防という観点では、Lancetにおいて、認知症の危険因子(聴覚障害、外傷性脳損傷(TBI)、高血圧、飲酒、肥満、喫煙、うつ状態、社会的孤立、運動不足、糖尿病、大気汚染など)が報告されたことも重要です。認知症の診断については、従来は健常者か認知症の2分法の診断が主流でした。また初診の多くは発症後の軽度認知症から中度認知症に移行する段階であり、その遅さが指摘されていました。しかし、現在は非認知症段階である MCI(軽度認知障害)、またその更に前段階である SCD(主観的認知機能低下)も含めた4分法の診断と、そのような未病ターゲットへの先制医療の重要性が注目されています。
非薬物的アプローチによる認知症予防
予防法としては、MCI・SCDに向けた1次予防・2次予防といった先制医療に加えて、認知症患者に向けた3次予防(進行を遅らせる)があります。具体的な共通の予防法としては、糖尿病など生活習慣病を直すこと、聴力低下の改善、もの忘れを自覚したら酒・たばこを控える、6時間半~7時間の適度な睡眠、人と楽しめるような対人ゲーム、運動などが挙げられます。実際にクリニックで非薬物的アプローチを行った自身の経験としても、MCI含む、様々な認知症段階で改善がみられています。
一方で、WHOが見解を示している通り、サプリメントに頼る必要はないと思いますが、メリットとして安心感が得られ、それによって前向きに生活でき、結果として健康維持につながることもあります。一部には、評価の高い国際学術誌に研究結果が掲載されているものもありますので、今後に期待できる部分もあります。サプリメントを選ぶ場合は、エビデンスの内容をチェックするなど客観的な評価を重視するように心掛けることが重要です。
その他のレポート
40代からの認知症リスク低減機構 代表世話人
アルツクリニック東京 院長/順天堂大学名誉教授
新井 平伊