講演②「ビフィズス菌MCC1274の作用機序研究報告」/ 道川 誠 (名古屋市立大学 大学院医学研究科 神経生化学分野・教授)

「ビフィズス菌MCC1274の作用機序研究報告」について

Aβ産生抑制の仕組み

 アミロイドβ(Aβ)が脳内に沈着することで老人斑を作ることが分かっています。AβはAPP(アミロイド前駆体たんぱく質)が、切断酵素BACE1によるβ切断とγセクレターゼによるγ切断の2回の切断を受けて産生されますが、Aβの途中で切断するα切断が行われればAβは産生されません。したがって、α切断を増やせばAβ産生が抑制され、アルツハイマー発症が抑制される、または遅くなる可能性があると考えられています。

作用機序の解析

 アルツハイマー病モデルマウス(ADモデルマウス)に対し、ビフィズス菌MCC1274を4か月間摂取させた結果、対照群と比較して新奇物体試験で検出される記憶障害の程度が軽減しました。これらのマウス脳を抗Aβ抗体で染色したところ、ビフィズス菌を摂取したマウスの脳では、海馬におけるAβ沈着が減少しました。ELISA法(抗体を使った免疫学的測定法)による定量でも、海馬ではAβ40と42の沈着レベルが低下していることがわかりました。
 さらに作用機序を解析したところ、ビフィズス菌を摂取したマウスの海馬では、対照群と比べてAPPのα切断を担う酵素のADAM10発現レベルが増加していました。なぜADAM10が増えているのか、その原因を探るためにADAM10の遺伝子転写プロモーター領域に結合する転写因子HIF-1αの発現レベル、ならびにHIF-1αの発現を制御するPKC(プロテインキナーゼC)とERK(シグナル伝達たんぱく質のひとつ)の活性化状態を解析したところ、PKCとERKのリン酸化が亢進し、HIF-1αの発現レベルが増加していることが明らかになりました。以上から、ビフィズス菌の摂取により、PKCとERKが活性化され、それによってADAM10の遺伝子転写を促進するHIF-1αの発現が増加することでADAM10が増加し、α切断が亢進されてAβ産生が下がったと考えられます。またAβ沈着が減ることにより、炎症性のミクログリアの細胞数の上昇が抑制され、脳内の炎症性サイトカインも低いレベルに抑えられるという二次的変化と思われる結果も得られました。ただしビフィズス菌を摂取することで、なぜPCK/ERK活性化が起こるのかは不明であり、今後の検討課題です。

考察まとめ

 以上の結果から、ADモデルマウスにおいて、ビフィズス菌MCC1274を摂取することによりADAM10の発現量が上昇し、Aβ産生が減少することで脳内Aβレベル・沈着が減少し、それによって脳内炎症の減少と認知機能障害の軽減がもたらされたと考えられます。
 ビフィズス菌MCC1274の作用点に関する更なる詳細の機序解明につきましては、今後も引き続き検討すべき課題と捉えています。

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名古屋市大学大学院医学研究科
神経科学分野・教授
道川 誠

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