講演①「認知症予防の最前線~腸からはじめる脳へのアプローチ~」 / 佐治 直樹 (国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 副センター長)

「脳腸相関」について

40~50 代は認知症のリスク低減に関心を持っていただきたい年齢層ですが、専門医からすると、認知症と診断されないと抗認知症薬が使用できない(MCI では処方できる薬がない)ことや、MCI・健常者など前段階への予防対策は漠然としたものが多いといった問題があります。認知症予防対策の社会のニーズは大きなウエイトがあると考えています。
認知症を防ぐ因子のひとつに「食事因子」が挙げられますが、脳と腸は自律神経などを介して互いに影響を及ぼし合うと言われ、その関係性のことを「脳 腸相関」と呼んでいます。脳腸相関については、近年「Nature」や「Lancet Neurology」といった信頼性の高い専門雑誌でも論文が公表されるなど、現在世界的に注目されています。また腸内細菌が認知機能と関連するという研究報告もあり、個別の腸内細菌の影響としてビフィズス菌に着目された論文なども最近注目を集めました。私たちの 2015 年からの研究では、認知症の有無によって腸内フローラのエンテロタイプ(構成タイプ)が異なることや、腸内細菌の代謝産物がそのメカニズムに関わっているのではないかということがわかってきました。最近では「日本食と腸内細菌・認知症との関係」についての解析を行い、日本食スコア※と認知症との関連についても発表しています。認知機能がよい患者さんは現代的日本食にある魚介やキノコ、大豆、コーヒーの摂取率が高いことや、日本食スコアの高い方が認知症の割合が少なく、伝統的日本食よりも現代的日本食スコアが高い人ほど認知症の割合が低いことなどが分かりました。この結果から、「食事と腸と脳」の相関関係が示唆されたのではないかと考えています。また、その他にも同様の研究では、魚油(DHA)や、豆類などが有効であることなども発表されています。今後も認知症予防という観点から社会に情報を提供していきたいと思います。

国立長寿医療研究センター
もの忘れセンター 副センター長
佐治 直樹

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